里山の特長を活かした相互扶助の防災とインフラ維持

新潟青陵大学・短期大学部社会福祉学部3年生の学生5名が【新潟県上越市中ノ俣地区】を訪れ、防災に関する取り組みや地区独自の防災体制・インフラについて取材しました。

テーマ:防災・インフラ、山間地域、相互扶助 取材場所:新潟県上越市中ノ俣地区 取材期間:2023/12/9~12/10
学生の取材記事(PDF)はこちらから

今回、私たちは新潟県上越市にある中ノ俣という山の奥にある小さな集落にお邪魔させていただいた。

中ノ俣はどんな地域

中ノ俣地区の大きな特徴として、高齢化が急速に進んでいる地域ということや、住人が40名ほどしかいないということだ。かつて、100軒ほどお家が建っており、一軒につき4人ほど住人がいて賑わっていた中ノ俣だが、現在では30軒ほどしか建っておらず、そのほとんどが一人暮らしの高齢者になっている。お店もなければ、お医者さんも週に一回しかやっていない。さらにスーパーまでは車を使って山を越えなければ行けない。そんな地域に住んでいる高齢者の方々は、どんな生活を送っているのだろうか?

中ノ俣の棚田

中ノ俣での生活

中ノ俣では、大きな棚田、たくさんの漬物を吊るしてある玄関、鶏を飼っているお家など簡単にお買い物ができないからこそ、自分たちで食べ物を作っている様子が見られる。さらには、離れた畑までスクーターをブンブン言わせながら向かっていく90歳のおばあちゃんの姿も見られる。山でとれた山菜や、卵を産まなくなった鶏を使った鍋を作って、日本酒を飲みながら近所の方たちと談笑することが楽しいそうだ。

このように、食べ物を自分たちで作り、自分たちで美味しく食べる生活を送っている中ノ俣の方々だが、上越市ということもあり冬になるともちろんたくさんの雪が積もる。また、木造の建物が多く、火事が起きたときに燃え広がりやすい。このような自然災害にはどう向き合っているのだろうか。

玄関に大根を吊るしている家
家畜として飼われている鶏

どんな防災の工夫が行われているのか

中ノ俣は地方都市から離れているため、火事がおこってしまったら消防車が到着するまで時間がかかってしまう。そのため、地域住民全体で助け合える関係が重要となってくる。また、この地域の住民のほとんどが後期高齢者のため、災害が起こったとき先頭になって動ける「保安要員」の仕事も重要となってくる。私たちはその保安要員の方々からお話を聞き、「防災の工夫」には3つの要素があると教えてもらった。

1つ目は、「災害を起こさない」工夫だ。災害には天気によるものや地震など事前に防げないものもあるが、「家庭で起こる火災」は自分たちの力で防ぐことができる。一般的に考えると、中ノ俣に住んでいる住民の年齢では後期高齢者にあたるため、認知機能が衰えて注意力がなくなり、火事を起こしやすくなってしまう。しかし、中ノ俣の方々は、そのような自分たちの状況をよく理解し、寝る前には台所の火・ガスを確認するなどの習慣づけを行っていると教えていただいた。

火災に自分たちで対処できるようあらゆるところに消火栓が配置されている

2つ目は、「地域住民同士の助け合い」の工夫だ。今回、保安要員の方がおっしゃっていた「防災は近隣住民を気にかけるところから。」という言葉が印象的だった。私たちはそもそも「自分の身は自分で守る。」と言われ育ってきた。そのため、災害を起こさない工夫や起きてしまった時の対処法は、自分で何とかするのが当たり前だと思っていた。しかし、中ノ俣の方々は後期高齢者ということもあり自分1人で何とかするにも限界がある。また、1人世帯のお年寄りがほとんどのため、家族に頼ることも難しい。そんな生活状況の中で重要となってくるのは、「地域住民同士の助け合い」だと学ぶことができた。自分たちの地域を自分たちの力で協力して守り抜いていくという強い意志に心うたれた。

3つ目は、「地域性を活用する」という工夫だ。これまで火災について話してきたが、中ノ俣の方々にとって雪も身近に潜む危険である。過去には屋根がすっぽり埋まるくらい積もったこともある。そんな中、中ノ俣の方々が何年もやってきた対策とは、「池や川など水の活用」である。散策して分かったことは、中ノ俣では家の周りに山から引いた水を流した池があったり、集落の真ん中に川が流れていた。そしてこの池や川に、屋根に積もった雪や、除雪した雪を落として溶かすという工夫を行っていると教えていただいた。知恵を持ち、自然をうまく活用する工夫はとても勉強になった。

家とその周りの池

中ノ俣を支えている保安要員とはどんな仕事

中ノ俣の古民家「清兵衛」にて保安要員の方々と囲炉裏を囲み、ご飯をいただきながら「保安要員」についてのお話を伺った。保安要員は、市の冬期高齢者支援事業として12月1日〜3月31日までの3か月間、活動を行っている。今は5人で活動しており、朝9時に集まり、まずは打ち合わせを行ってから活動をスタートする。活動内容は、毎日の積雪情報(積雪量、気温、天気等)を市へ報告、除雪車が通らない道の除雪作業や安全確認、研修センタ―や診療所、神社などの公共施設の除雪などである。お話をうかがう中で課題もあることが分かった。1つは保安要員の平均年齢が高くなっていることである。中ノ俣の特徴として平均年齢が75歳以上ということもあり、おのずと保安要員の平均年齢も高くなる。年をとるにつれて、身体的な負担も大きくなり、「いつまでこうして活動を続けていけるか分からない」といった不安を抱えていることが分かった。また、空き家や火事によって家屋が減り、一つ一つの家が離れてしまい、火事が起きたときに周りの住民に知らせにくく、迅速な対応が難しくなってしまうという課題もあることが分かった。                                    お話をうかがい、保安要員がいることで住民の安全が守られていることがよく分かり、中ノ俣集落の住民同士の支え合い、助け合いの強さを感じた。これからもこの活動をできるだけ長く継続してほしいと感じた。

保安要員の方とお話しながらご飯をいただきました

インフラ面での工夫と活用

・河畔林整備と活用                                          

散策をしている途中、集落の中心を流れる中ノ俣川の護岸強化のための河畔林の風景が見られた。護岸を守るためにケヤキを植えており、木が大きくなると出荷して経済活用も行っているそうだ。防災インフラに関わる自然資源を用いた、先人の知恵として注目される。

護岸を守るケヤキ

・古民家を活かした継承とコミュニケーション                             

集落では、古民家をリノベーションし、新たな集いの場としている。伝統家屋を廃屋化させずに保全すると共に、インフラとして有効利用することで、新たなコミュニケーションの場を作っている。

古民家「清兵衛」

紹介してくださった地球環境学校とはどんなところ

上越市地球環境学校

上越市地球環境学校は、平成11年に閉校した上越市立中ノ俣小・中学校の空き校舎を利用して開校された。開校期間は4月1日~12月28日で、中ノ俣集落にある多様な自然環境やそこに暮らす人々の「自然と共に生きる知恵や心」に触れる体験プログラムを提供している。 小・中学校、高校、大学での学習の一環としてはもちろん、子ども会や家族、サークル活動など、里山体験や自然体験を通しての環境学習を希望する人なら誰でも利用できる施設である。地球環境学校には、学習室、体育館、食堂・調理室、野外炊事場がある。今回の取材では学習室と体育館を利用させていただいた。学習室は活動の拠点となるスペースで、活動前後の説明や振り返り活動、少人数でのものづくり活動を行う。私たちは、学習室で中ノ俣集落の特徴やかみえちご山里ファンクラブの活動内容、予防福祉についてのお話を伺った。

地球環境学校のなかの様子

体育館は広いスペースを確保できるため、ものづくり活動や100名規模の大人数の活動拠点となるほか、雨天時の活動にも便利である。わら細工や千歯こき、唐箕、手あおりポンプなどの民具や、ミニチュアの茅葺き古民家なども常設展示している。その他に地球環境学校で活動を行った小学校の寄せ書きと写真が貼ってあり、多くの地域の小学校が里山体験や自然体験を通して自然に寄り添う心や、地域にあるものを最大限に活用する知恵や技術を学んでいることがわかった。

地球環境学校の体育館の様子

上越市地球環境学校は中ノ俣が、昔ながらの生存技能を学ぶ「生存教育」の場となるとともに、その生存技能を現代の生活様式に取り入れていく術を共に学び合う「生存共学」の場となることを目指している。

参考文献:上越市地球環境学校パンフレット

地域の課題とどのように向き合うのか

地域の課題:火事・高齢化・住民が少ない・交通の便が悪い

地域の課題は、なんといっても超高齢化が進んでいることだ。平均年齢は75歳を超え、一番若くても60代、はたまた90歳を超える住人も一軒家で一人暮らしをしている集落だ。高齢でも一軒家で暮らし自給自足をしていたり、おばあちゃんがバイクでかっこよく走り去る姿を見て、住民の自立度の高さにはとても驚かされた。そんな超高齢化が進む中ノ俣では、防災面や買い物などにおいて独自の工夫が施されていた。先述したように、防災面では、「災害を起こさない」「地域住民同士の助け合い」「地域性を活用する」という工夫が行われている。  2023年2月に、中ノ俣で2軒全焼する火事が発生した。住民は、普段から防災意識を高く持ち、臨機応変な行動により、地域住民は協力して避難した。死者は1名となってしまったが、それ以上被害を出すことはなかった。通報をしてから消防が到着したのは、火災発生から約2時間ほど経ってからだったそうだ。このことから分かるように、市街地から離れた場所にある中ノ俣では、以上の3つの工夫のように、住民全体で防災意識を持つことがとても大切な心がけなのである。また、火災に気を付けるだけではなく、雪にも注意が必要となる。中ノ俣では雪が2メートル以上積もるのは当たり前のことであるそうだ。県道には除雪車が入るものの、それ以外の除雪は、すべて住民らが自ら力を合わせて行わなければならない。その際、保安要員が集落で一台持っている除雪機で除雪活動をする。高齢者は、自分の力で数メートルも積もる除雪を自力で行うことはできない。

家内安全を祈った地蔵

ここ、中ノ俣では保安要員を中心に地域での支えあいや、共同意識を高めあうことが住民の集落での生活を実現しているのである。

中ノ俣の集落の様子

若者の立場として何ができるか

①情報を発信すること

 私たちが中ノ俣に行き感じたことは、初めて知ったことが多かったという点だ。上越の小・中学校では中ノ俣について学ぶ機会があるようだが、取材したグループのなかで中ノ俣の実態を知らないメンバーが半数であった。

 そこで第一に考えたのは若者の私たちが、SNSを使い情報を発信することだ。情報を発信することでどんなメリットがあるのか。それは、中ノ俣の住民の方の役に立ちたい、と考える人が増えるということだ。高齢化がすすみ、住民同士での助け合いにもできないことが増えてくると考える。体力を使う草刈りや、街中への買い物代行など私たちのように若く体力がある人がすすんで行えるように、まず中ノ俣の実態を知ってもらうということが重要であると考えた。

②中ノ俣まで行きにくいことを知ってもらう

中ノ俣は車で複雑な山道を通らないと行くことができない。もし大雪が積もり車が運転できなくなってしまったら、もし何らかの原因で一本でも木が倒れてしまったら、中ノ俣に向かうことができない。時間はかかるかもしれないが、高齢者が集まる地域だからこそ、すぐに出向くことができ、行きやすい道を作ることが課題なのではないかと考えた。

③孤独ではないと分かってもらう

中ノ俣の住民は、住民同士の助け合いや自分でできることは自分でやることが基本である。しかし、高齢化がすすみどんどん住民が少なくなってしまっている。そんな住民を孤独にさせてはならないと私たちは考えた。自分を支えてくれる人がいるということ、困ったときに頼れる人がいるということを分かってもらうことが必要であると考えた。

中ノ俣の川

これらのことを踏まえて、若者である私たちがすぐに行えることとは、SNSを使った情報発信であると考えた。知ってもらう、興味を持ってもらうことが支援への第一歩であると考える。実際に中ノ俣に行き、魅力あふれる街であるということを学ぶことができた。私たちは、自分たちにできることを行い、中ノ俣という地域を支えていく必要があると考えた。

《本取材は、一般社団法人北陸地域づくり協会の研究助成事業の支援により実施いたしました。》