1.里地里山の体験学習と本アプリケーションの目的
このアプリケーションは、里地里山の体験学習の指導者の皆さんに対して、効果的かつ円滑に、体験学習プログラムを構想し、具体的な計画立案とプログラムの作成を行い、参加者募集ができるよう支援するものです。また、各地の指導者の皆さんの実践知見を収集・発信・活用することを促進する機能を備えています。
ユーザーとして想定される里地里山の指導者の皆さんとして、次の方々を想定しています。
- 地域集落の有志の活動家・実践家の皆さん
- NPOをはじめとした民間活動団体・事業者等の皆さん
- 地域学校協働活動やコミュニティスクールの地域コーディネーターの皆さん
- 総合的な学習の時間はじめ、地域と連携した授業を考えておられる教員の皆さん
- その他、里地里山でのプログラムづくりと実践を行おうとされている多様な皆さん
上記には、探求学習の一環で取組もうとしている高校生や、参加型研究等フィールドワークの一環で実践を行おうとしている学生等、これから里地里山の体験学習活動に取組もうとし、そのための学びやトレーニングをしていこうとする指導者候補生の学習者も含まれます。
このように今日、里地里山を舞台に様々な体験学習が、実に多様な方々のかかわりによって行われています。本アプリケーションが活用されることで、各地域の指導者の皆さんと共に、よりよい体験学習プログラムを構想・作成されるとともにそれらの知見が蓄積され、広く発信・普及していくことを目指しています。
2.里地里山の体験学習の意義とその目指すもの
里地里山の体験学習指導者の皆さんは、それぞれが活動する地域に根ざした自然や文化、知恵や技術を用いながら、様々な貴重な経験を、子どもたちをはじめとした学習者に提供しています。
里地里山の体験学習プログラムの作成に当たっては、「感動体験」ももちろん大切ですが、単に「楽しかった」だけでなく、例えば次のような学びや行動変容が起こることが重要だと考えます。
(1)体験学習を通じた深い学びと行動変容
- 体験を通じた主体性、仲間との協調性、生きる力といった能力開発
- 自然・生態系への深い理解
- 人々の暮らしの知恵や技術、文化への気づきと共感
- 環境や過疎化少子化などの社会問題と、その原因となっている制度や仕組み等の課題
- その他、キャリア形成等はじめとした様々な学び
また、文部科学省では、体験学習のねらいとして以下の8つを掲げています。
(2)体験学習のねらい
- 現実の世界や生活などへの興味・関心、意欲の向上
- 問題発見や問題解決能力の育成
- 思考や理解の基盤づくり
- 教科等の「知」の総合化と実践化
- 自己との出会いと成就感や自尊感情の獲得
- 社会性や共に生きる力の育成
- 豊かな人間性や価値観の形成
- 基礎的な体力や心身の健康の保持増進
さらに、地域の指導者の皆さんは、子どもたちをはじめ学習者が、単なる教養としての学びではなく、現実場面で里地里山の保全や活用や伝承にかかわってもらい、力になってもらいたい、共に取組んでもらいたいといった実践的な志向性をもっているものと思います。
(3)体験学習の実践活用
- 里地里山の保護・保全
- 里地里山の活用(サービスや商品等の開発含め)
- 里地里山の伝承(担い手育成)
- 里地里山の新たな事業等の創造
体験学習プログラムの設定に当たっては、上記のような諸要素をプログラムに仕組んでいくことが期待されます。本アプリケーションは、これらの諸要素をプログラムとして内蔵させ設定していく支援機能が備わっています。
3.プログラム設定の留意点
前節まで掲げた体験学習の目的やねらいを達成していくために、当日の体験学習(「事中学習」)だけでなく、前後の学習、すなわち「事前学習」や「事後学習」をいかに設定できるかが鍵となります。また、事前・事中・事後の各学習プログラムを設定するにあたっては、初めてその体験に接する学習者の側にたって、各学びのテーマを受けとめやすいように、「導入」「展開」「まとめ」といった形で、学びのプロセスを段階的に構成し、提示していくことが効果的であると考えられます(以下の図を参照)。
これによって、子どもたちが体験活動をより深め、充実化させるとともに、体験によって生じた行動変容を日常化していくことができるものと考えられます。またこうした構造的な体験学習の設定は、学校教育の指導案と通底するものであり、里地里山地域の体験学習を学校教育と協働させる上でも有効だと考えられます。
本アプリケーションは、体験学習をこのようなプログラムの基本構造を構成していくための支援機能を備えています。
4.体験学習充実のためのICT・オンラインツール利用
ICT(InformationandCommunicationTechnology)・オンラインツールの利用は、里地里山の体験学習そのものを代替できるものではありません。やはり体験は五感を持って行ってこそ、その真価が発揮されるものでしょう。したがって、ICT・オンラインツールの利用は、体験そのものの代替ではなく、里地里山の体験学習をより質的に充実させるための補完的・支援的ツールとして利用すべきものと考えています。
都市部の子どもたちにとって、里地里山はなかなか普段接することができません。当日の体験学習(事中学習)は限られた時間の中での貴重な経験です。その事中学習をより充実させるためには事前学習は大切です。事前学習をICT・オンラインツールを用いることで、学習者のみならず指導者にとっても双方向での事前コミュニケーションを円滑にしたり、当日の学習に役立つ知識やトレーニングを行ったりすることができます。限りある事中学習をより充実させるために、興味・関心を深めることに役立てられます。
また、事後学習をICT・オンラインツールを用いて提供することで、事中学習をそのままにせず、体験のふりかえりを促し、学習者の日常生活に役立てたり定着させていくことを支援することができます。体験学習の場が遠隔地にあってもつながり続け、次回のリピーターとして再訪問し、体験学習を継続していくためのよすがとすることができるでしょう。
このようにICT・オンラインツールを有効に用いることで、都市部など遠隔地にある学習者に対して、事中学習の充実化を図ると共に、当日の体験の定着を促し、里地里山活動へのリピーターとして継続的参加を促していく効果が期待されます。こうしたことをねらいとして、本アプリケーションには作成したプログラムや教材資料等を、学習者へ効果的に提供したり相互にやりとりしたりするための支援機能を備えています。
5.知見の発信・収集と有効活用
環境省「里なび」 では、次のようなメッセージが掲げられています。
「里地里山の保全・活用のためには、現場の視点からさまざまな仕組みを考えていくことが必要です。また、地域ごとに生まれた適正な管理のための知恵を活かして人づくりを進めるとともに、地域の自主的な活動を尊重しつつ、活動地域間の「人」と「情報」のネットワークを構築することで活性化を図り、拡大していく視点が大切です」
この視点は里地里山の体験学習においても大切なものと考えます。本アプリケーションは、全国の里地里山の体験活動の知見を、各地で取組む指導者の皆さん方と一緒に、収集し提供するとともに再創出し発信しようとするものです。
このアプリケーションで参照することができる既存の体験プログラムは、単に使い回すものではなく、新たな発想や創造を育む種として、新たなチャレンジにつなげていく方向で利活用いただこうという意図をもって構成されています。
本アプリケーションを仲立ちとしながら、様々な里地里山の体験学習が積み重ねられることで、「地域の自主的な活動を尊重しつつ、活動地域間の「人」と「情報」のネットワークを構築することで活性化を図り、拡大していく」ことが実現できるものと考えます。ぜひ指導者の皆さんとつながりあいながら、里地里山の体験学習を盛り上げていきましょう。
(参考)里地里山の体験学習プログラム設定にかかわる情報サイトなど
環境省「里なび」
https://www.env.go.jp/nature/satoyama/satonavi/
環境省「生物多様性保全上重要な里地里山」
https://www.env.go.jp/nature/satoyama/jyuuyousatoyama.html
農山村支援センター「里山なび」,
特定非営利活動法人里の自然文化共育研究所ウェブサイト,
https://sato-ken.org/
大正大学出川真也研究室「地域創生の教育学」
https://degawaken.com/